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むかしの味 池波正太郎  新潮文庫
 
[たいめいけん]の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。物質のゆたかさではない。そのころの東京に住んでいた人びとの、心のゆたかさのことである」
 
池波正太郎氏が愛してやまなかった“むかしの味”を、それぞれのお店ごとに紹介した本。日本橋たいめいけんのポークソテーとカレーライス、神田須田町まつやの蕎麦、銀座新富寿し、浅草前川の鰻・・・、昔から多くの人に愛されてきた、庶民も楽しめる味の数々。
 
たいめいけんやまつやは、私も時々行きました。ただし、たいめいけんでは中華そばを、まつやでは丼ものを食べる事も多かったですけどね。
 
さて、この『むかしの味』には、長野県から2つのお店が紹介されています。ひとつはもう店を閉めてしまった、松本市の中華料理店竹乃家。私が最初に松本に赴任した20年前には、まだお店がありました。池波氏も好きだったという焼きそば、実に美味かったです。今は松本市桐1丁目にある 驪山(れいざん)で、竹乃家の焼きそばが食べられます。ちょっと高いですけどね。
 
池波氏は竹乃家を、「四、五人で行き、腹いっぱいに食べ、勘定を払うときの、物価が高すぎる東京人のおどろきは、そこへさらに、(こんなに旨くて)のおもいが加わる」と紹介しています。
 
もう1店は上田市の蕎麦屋、刀屋。
地元でも“盛りが良い”ことで有名なお店ですが、休日には観光客で混雑します。池波氏は真田太平記の執筆時、何度も上田を訪れていて、その際に刀屋で地酒を飲んで蕎麦を食べたそうです。
 
普通のお店のつもりで「大もり」なんて頼むと、お店の人が「大丈夫ですか、前に食べた事はありますか?」なんて心配します。信州蕎麦としては、けっこう珍しいタイプの蕎麦で、太めの打ち方の上にかなり硬い。食べているうちに顎が疲れる(それはちょっとオーバーですが)。
 
そして池波氏と信州上田、実は浅からぬ縁があったのです。
「私の母方の祖母の先祖は、上田城下の造り酒屋だったそうな。何とはなしに、信州と私との因縁を感じる今日このごろなのである」